遺伝性疾患を引き起こす遺伝子変異は、数ある変異のうち一部の変異です。遺伝子変異の多くは、健康や発達に影響を与えるものではありません。たとえば、DNA配列が変わっても、遺伝子から作られるタンパク質の機能は変わらないような変異もいくつかあります。
遺伝性疾患を引き起こす可能性のある遺伝子変異は、多くの場合、遺伝子が発現して変異タンパク質が作られる前に、特定の酵素によって修復されます。細胞には、DNAのエラーを酵素が認識して修復する経路がたくさんあります。DNAはさまざまな原因から損傷または変異する可能性があるため、DNA修復は、ヒトのからだが病気から身を守るために重要なのです。
一方、ごくわずかですが、良い影響をもたらす変異もあります。変異によって出来た新しいタンパク質が、新種の菌から自分や後世の人々を守るなど、環境変化への適応を助けるような場合です。
ヒトの遺伝暗号の中には、健康に影響を与えない変異が多数存在することがあるため、遺伝性疾患の診断は難しい場合があります。特定の遺伝性疾患に関連すると考えられる遺伝子に変異があっても、その変異が疾患の発症に関与しているかどうかはわかっていないことも多くあります。これらの遺伝子変異は、意義不明の変異(variant of unknown significance:VOUSまたはVUS)と呼ばれています。
また、特定の遺伝性疾患への関連が疑われる遺伝子に変異が見られず、関連が不明な他の遺伝子に変異が見られる場合もあります。そうした変異が、その遺伝性疾患に関与しているかどうかを知ることは難しいとされています。(遺伝性疾患プラス編集部)