進化とは生物の集団が世代を経ながら変化していく過程です。この変化の背景には遺伝子の変異があります。遺伝的な多様性は遺伝子の変異型や細胞が分裂する際に遺伝物質が再編成される通常プロセス(遺伝子組み換えと呼ばれる)の中で生じることがあります。遺伝子の活性やタンパク質の機能を変化させる遺伝子の変異は、生物にさまざまな形質をもたらします。形質が個体の生存や繁殖に役立つ有利なものであれば、その遺伝子変異は次の世代に受け継がれる可能性が高くなります(自然選択と呼ばれるプロセス)。形質を持つ個体が何世代にもわたって繁殖し続けるにつれて、有利な形質は集団の中でますます広がり、集団が祖先の集団とは異なるものになるのです。場合によっては新しい種とみなされるほど異なる集団になることもあります。
すべての変異型が進化に影響を与えるわけではありません。卵や精子の細胞内で発生する遺伝性の変異型だけが次世代に受け継がれ、進化に貢献する可能性があるのです。ヒトが生きている間に体の一部の細胞で変異型が発生しただけでは遺伝的な継承性はなく、自然選択の役割は果たしません。また、遺伝子やタンパク質の機能に影響を与えず、有用性も有害性もない遺伝子変異も多数存在します。生物の集団が生活する環境も形質の選択に欠かせません。例えば、ある細菌に対する抵抗性が有利に働くのは、そもそもその細菌がその場に生息しそこに住む人々に害を及ぼす場合のみにおいてなのです。
では、遺伝性疾患のような形質が自然淘汰されずに集団の中に残るのはなぜでしょうか。いくつかの説明が考えられますが、多くの場合、答えは明確ではありません。神経疾患のハンチントン病のように、兆候や症状が人生の後半、通常は子供を産んだ後に現れる疾患もあります。こうした場合、その人が病原性のある遺伝子変異を持つとわかる前に受け継がれることがあります。また、浸透率の低下と呼ばれる、疾患に関連する変異型を抱えていても疾患の兆候や症状を示さない場合があるという現象がみられる場合にも、病原性のある遺伝子変異が次世代に受け継がれることがあります。疾患によっては各細胞に遺伝子の変化したコピーが1つあると有利で、2つあると病気になるという場合もあります。この現象について最もよく研究されているのが鎌状赤血球症です。鎌状赤血球症は変異遺伝子を1対(2コピー)持っていると病気になりますが、片方の遺伝子(1コピー)のみが変異している場合にはマラリアに対してある程度の抵抗力が生じます。鎌状赤血球症の原因となる変異型は、多くの集団、特にマラリアが流行している地域で見つかりますが、その理由としてこうした耐病性の影響が挙げられています。(提供:ステラ・メディックス)