遺伝性疾患の命名
遺伝性疾患を含め、遺伝を原因として起こるさまざまな身体的な状態(遺伝的な状態)は、一つの標準的な方法によって命名されるわけではありません(正式な委員会により正式名称や略称が決定されている遺伝子とは異なります)。これまで知られていなかった障がいを持つ家族を治療している医師が、その疾患名を最初に提案することがよくあります。その後に医療従事者、研究者、当事者などが集まり、全体的に納得感のある名称に修正することもあります。命名は、特定の症状に対する適切なやり取りを可能にするうえで重要です。また、最終的にはケアの向上や、研究者による新しい治療法の発見につながるものでもあります。
遺伝性疾患の名称は多くの場合、1つまたは複数の観点に由来します。
- 遺伝性疾患の原因となる基本的な遺伝的または生化学的欠陥(例:α1アンチトリプシン欠損症)
- 遺伝性疾患の原因となる変異型(または突然変異)が生じている遺伝子(例:TUBB4A関連白質ジストロフィー)
- 遺伝性疾患の1つ以上の主要な徴候または症状(例:ジストニアを伴う高マンガン血症、真性多血症、クリプトゲン性肝硬変など)
- 遺伝性疾患の影響を受ける身体の部位(例:脳肺甲状腺症候群)
- 医師や研究者の名前で、多くの場合、その遺伝性疾患を最初に説明した人の名前(例:マルファン症候群はアントワーヌ・バーナード・ジャン・マルファン博士にちなんで命名された)
- 地域名(例:家族性地中海熱は、主に地中海に面した地域で発生)
- 患者や家族の名前(例:筋萎縮性側索硬化症は、この疾患と診断された有名な野球選手にちなんでルー・ゲーリッグ病と呼ばれることもある)
特定の人物にちなんで名付けられた疾患は、「エポニム」と呼ばれています。エポニムには所有形(例:Alzheimer's disease)と非所有形(Alzheimer disease)があり、どちらが好ましいかは議論の対象になってきました。遺伝学者は原則として非所有形を使っており、今後は医学界の医師の間でも非所有形が標準となる可能性があります。
遺伝子の命名
ヒトゲノム命名法委員会(HUGO Gene Nomenclature Committee;HGNC)は既知のヒト遺伝子に対して正式な名前と略称を指定しており、この委員会は米国国立ヒトゲノム研究所と英国ウエルカム財団が出資する非営利団体です。委員会はヒトゲノムに存在する推定2万〜2万5,000のタンパク質をコードしている遺伝子のうち、1万9,000以上の遺伝子を命名しています。
研究の過程では、同じ遺伝子を調べている研究者から、複数の名前や略称が出てくることがあります。ヒトゲノム命名法委員会では混乱を解決するためにヒトの各遺伝子に固有の名称と略称を割り当てています。これにより大規模なデータバンクの中で遺伝子を効率的に整理することが可能となり研究の発展につながっています。遺伝子の命名方法についての具体的な情報は同委員会の「ヒト遺伝子命名のためのガイドライン(Guidelines for Human Gene Nomenclature)」をご参照ください。(提供:ステラ・メディックス)