遺伝子変異とは、遺伝子を構成するDNAの塩基配列が、その他大勢の人と異なる部分を指し、生涯続くものです。遺伝子変異の大きさは、1塩基の違いから、複数の遺伝子を含む染色体領域の変化まで、さまざまです。
遺伝子変異は次の2つに大きく分類することができます。
1.先天的な遺伝子変異
このタイプの遺伝子変異は、親から受け継がれ、生涯を通じて、体のほぼすべての細胞に存在することになります。この変異は、親の生殖細胞である卵細胞や精細胞に存在するため、生殖細胞系列変異とも呼ばれます。卵細胞と精細胞から成る受精卵は、両親からDNAを受け継いでいます。どちらかのDNAに変異があった場合、最初の1つの細胞である受精卵に変異があることになり、ここから細胞分裂・成長を繰り返してうまれた赤ちゃんは、全身の細胞に変異をもつことになります。
2.後天的な遺伝子変異
これは体細胞変異と言い、一生のうちのある時点で、体内のすべての細胞ではなく特定の細胞にのみに発生する変異です。この変異は、環境要因(紫外線など)によって起こったり、細胞分裂におけるDNAの複製エラーとして起こったりします。体細胞とは精子と卵子以外の細胞のことで、体細胞に起きた変異は、子ども(次世代)に受け継がれません。
親から受け継いだ先天的な変異ではなく、子どもの代で新しく発生した変異のことを「新生(de novo)変異」といいます。新生変異は、遺伝性、体細胞性のいずれでも起こり得ます。このタイプの変異は、卵細胞や精細胞のみに起こり、体細胞には起きない場合もあります。さらに、卵細胞と精細胞が合体した直後の受精卵で起こる場合もあります。なお、新生変異がいつ起こったか、正確にわからない場合もあります。新生変異をもった受精卵が分裂すると、成長中の胎児の各細胞には、その変異が受け継がれていることになります。子どものすべての細胞に変異がみられ、その両親には変異がみられず、したがって家族歴がみられないという遺伝性疾患は、新生変異で説明づけられるでしょう。
胚発生の初期(受精卵が分裂を始めて間もない頃)に、1つの細胞に変異が起こった場合、その後さらに細胞分裂が進んで胎児へと成長したときに、変異のある体細胞と変異のない体細胞が混ざった状態の「体細胞モザイク」となる可能性があります。体細胞モザイクは、親の卵細胞や精細胞、または受精卵に起こるものではなく、受精卵が分裂を始めて間もない頃、まだいくつかの細胞から成る状態の時期に起こります。変異の起きた細胞も、起きていない細胞も、すべての細胞がどんどん分裂を繰り返し、胎児は成長と発達をしていきます。そして体は、遺伝子変異のある細胞と、遺伝子変異のない細胞のモザイクとなります。体細胞モザイクは、遺伝子変異の種類や、変異の影響を受ける細胞の数によって、病気を引き起こす場合と引き起こさない場合があります。
遺伝子変異のうち、病気の原因となるものは、まれです。一方で、遺伝子変異自体は頻繁に発生しています。集団の1%以上で発生する遺伝子変異は、遺伝子多型と呼ばれ、それらはDNAの正常な変化と見なされます。遺伝子多型は、例えば、目の色、髪の色、血液型などの違いの原因となるものです。このように、多くの遺伝子多型はヒトの健康に悪影響を及ぼしませんが、特定の病気の発症リスクに影響する可能性があるものも、いくつかあります。(遺伝性疾患プラス編集部)